ホルモンの焼き方

 私は餅が大好きだ。特に焼いた餅が好きだ。じっくり育て焼き目がしっかりついた餅を一度醤油に浸してさらに焼く。さながら刀匠のようだ。そして醤油が乾いたころに海苔で巻いて食べる。この食べ方なら餅がいくらあっても食べられる。

 しかしこのじっくり育てて焼くことが案外難しい。焦がさないように常に面倒を見なければならない。今か今かと焼ける様を見る私によく祖父母は言った。「魚は殿様の子に焼かせよ、餅は乞食の子に焼かせよ。」

 魚は焦がさないように何回もひっくり返しては身がぼろぼろになり駄目なのだ。だから余裕のある殿様の子に焼かせるのが良い。反対に餅のように焦げやすいものは何回もひっくり返し今か今かと焼けるのを待つ乞食の子が面倒を見たほうが良いと。

 最近焼肉に行く機会があった。お金のない私は一枚一枚ていねいに焼く。いわゆる育てるというやつだ。 この育てた肉一枚でハイボールをジョッキ半杯分は飲めてしまう。肉が焼かれる様をつまみに飲み、焼かれた肉をハイボールで流し込むのだ。

 肉によって焼き方も違ってくる。焼肉で一番人気のタンはサッと焼くのが良い。焼きすぎてしまうと硬くなって美味しくない。反対にマルチョウは時間をかけて焼くのが良い。初めは七輪の端でじっくりと焦げ目がつくまで待つ。さらにひっくり返してもう一度待つ。両面に焦げ目がついたら、最後に七輪の中央でサッと炙り食べる。

 気分良く酔っ払ったところでふと祖父母に言われたことをなぞり思った。「マルチョウは殿様の子に焼かせよ、タンは乞食の子に焼かせよ。」

 マルチョウの焼き方が上手な私は乞食の子から殿様の子に生まれ変わったのかもしれない。