ボヘミアン・ラプソディ

 公開日の翌日にこの映画を観に行ってきた。映画館に入ると案の定、年配の方が多い。一緒に観に行った友人の母もQueenの大阪公演に行ったことがあるそうで、きっと一緒にQueenと生きたファンであろうか。そして二十代の方もちらほらと。若い世代のQueenの入りはどこだろうか。カップヌードルのCMか、ジョジョの奇妙な冒険のスタンドか、はたまた次長課長のコントであろうか。

 「We will rock you」を聴くと中学二年生のある事件を思い出す。休み時間に友人が教壇に立つと、手足でリズムを作り「We will rock you」を歌い出した。そして「singin'」とマイクを向けられたなら、我々クラスメイトも「We will we will rock you」と叫ばざるをえなくなる。災難にも私達の教室が職員室の真上にあったため、この異常な地響きと熱狂にすぐ気づかれ、体育教師から大目玉を食らった。Queenは危険だ。楽器も持たないのに我々をこんなにも熱狂させてしまう。そう中学生の私は思った。

 私がQueenを真剣に聴くようになったのは高校生になってからであった。当時はRadioheadに夢中で、音楽の地平を切り拓く姿勢が好きだった。そしてクイーンとRadioheadはこの姿勢において似ている。

 映画の中でも出てくるBohemian Rhapsodyとレコード会社との対立。そのポピュラー音楽には無い構成と実験的手法を盛り込んだ音、意味の通らない歌詞、こんなものが売れるはずかないと突っ返されていた。しかし、レコード会社の思惑とは反対に、世界中で大ヒット。今では英国史上最高のシングル曲に選ばれている。Radioheadの「OK computer」も同様のことがあった。この実験的で暗いアルバムはレコード会社から商業的自殺とまで言われたほどであった。しかし、これも世界的に大ヒットし、90年代の金字塔とまで言われている。そしてBohemian Rhapsodyと「OK computer」のParanoid androidが同じ4部構成であることからQueenの中でもこの曲をよく聴いていた。

 普段、私は滅多に歌詞に目を通さない。しかし、Bohemian Rhapsodyを聴いていると、TOEICが500点取れなかった私のリスニング力でも耳に入ってくる歌詞がある。「Mama,just killed a man」えらく物騒なことを言っているなと思い歌詞を調べてみる。しかし、歌詞の内容は分からない。 実際、映画の中でも本人がこの歌詞に意味なんてないと言っている。本人が言うのならばそうだろうと飲み込むしかないのだが、この映画を観た後、そうではないような気がした。

 映画の中ではQueenの活躍とフレディの苦悩が描かれている。フレディは婚約者がいながらも、自身が同性愛者である葛藤から離婚を選択し、最後は男性と結ばれている。「Mama,just killed a man」のa manとは女性を愛す存在である男という意味ではなかろうか。

 ライブエイドのシーンでBohemian Rhapdodyが演奏される。いっそのこと生まれてこなければよかったと歌うフレディを観て、歌詞がこれまでの映画で描かれた苦悩と重ね合わされ、私はそう思ってしまった。フレディの中の男は銃で撃ち抜かれた。ナイフでもロープでもなく、銃によって殺されてしまったのだ。

 この映画のタイトルが「Queen」でも「We will rock you」でも「We are the champion」なく「Bohemian Rhapsody」であることはきっとこんな意図があったのではなかろうか。